2014年4月16日水曜日

上杉謙信 部下の忠心と戦国大名の精神  それと自分の思う吉川英治の読み方




青空文庫版は http://www.aozora.gr.jp/cards/001562/card56461.html

連載時期は「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号
 太平洋戦争の初期に書かれた本でもある。

吉川英治の凄いところは、戦前、戦中、戦後と 代表作を残していること。
それと平行して、このような中編小説も書いている。
だからその時代の空気を敏感に反映させたものになっている。
生産量の多さに感銘する。そして、常に人気作家、通俗文学の国民的作家であった

戦後は反省のため、一度は筆を折った。死地に人の美学があるということを描きながら、自国が敗戦し、敗残兵を目の当たりにしたとき、どういう気持ちだったのだろう。

戦中のときは人々の勇気を与えるような作品が多いように感じる。死ぬ事にどんな意味があるのか、戦国の人間模様を通じて、その当時の戦地に赴く実際に命のやり取りをしているものに勇気と君命に殉ずる美しさを与えようとしていたのだろう。

だから、吉川英治の作品はどの時期に書かれたかは、注目すべき点。

歴史学、学者は、事実の積み合げによって真実をしらべあげるのが仕事になる。
それに反して、歴史小説は登場人物の人間性、この人はどんな人間でどんな考えを持って戦国の世をいきたのか想像力を働かせ、ひとつを人物像を提供してくれる。
そこには、上杉謙信自体の血は通ってなくても、吉川英治の情熱を感じる事ができる。

歴史のおさらい

有名すぎる戦い・第四次川中島の戦い
上杉軍1万3千、武田軍2万(海津城後詰め2万) 

敵陣ふかく妻女山に陣を構えた上杉軍、そこに挟撃をしかけた武田軍の動きを読まれ、
啄木鳥戦法の失敗で武田信玄のいる遊撃隊が電撃攻撃を受け、副将弟の武田典厩信繁、軍師山本勘助などを失った武田軍
電撃的に本陣を全軍全ての軍事をもって武田軍信玄の陣に攻め込む。信玄率いる遊撃隊が壊滅寸前まで来た時、本体部隊12000が合流し、その後の反撃で追い返して、上杉謙信は、旗本12騎のみで命からがら越後へ撤退する。武田には領土的な損害はなかった。
ただ、武田軍4000名 上杉軍3000名の死者を出した戦い。

戦争が起こった背景

1561年武田・北条・今川の三国同盟が生きているとき、
上杉謙信は、北条関東攻めで小田原城まで迫っていた。
そのとき、北条の同盟国武田信玄が、上杉の本国越後に軍を進めることになり、
帰国せざるえないという状況だった。
そして、川中島の戦いが勃発する。

小説の人物表現

この上杉謙信という小説は、序盤の謙信は心情をそこまで明らかにせず、
周りの重臣たちと同じような進境になる。そして一端戦緒が切られるとき。
その無策の無、背水の陣の考えを知らされる。それに対して重臣達が喜ぶ姿。
そして、上杉軍の人間全てが命をかけて戦うすがた、ひとりひとりに物語を与えてくれる。まるで自分の知己の者が戦場に散っていったイメージを与える。
なにより、その脇役にたいしても関心がわき、そして彼自身の行動論理を明確にしてくれる。
なので、読んでいて、この人はなぜこう考えたのか、こう行動したのかという部分で、考えずにすらすらと読める。

題材が有名なこともあるが、
歴史にそこまで興味のない人は知らない有名ではない部将にも、ネタを創作してくれる。戦場に自分の越後に間者として送り込んだ娘が怪我をして滞在してることを知りつつ、追ってくる娘におぬしのことは知らん、知らんという 肉親の情よりも君命・命をかけるためにすべての情を断ち切る姿などを描かれている。もちろん太平洋戦争に出兵していく青年達に、このような心得を持ってほしいという想いもあったのだろうが、公儀のために命をかける姿はドキドキする。

歴史小説なので、ある程度の真偽よりも面白さが追求される。
そして作家特有の嗅覚がその登場人物の心情を創作して、その人間がまるで生きているかのように再現してくれる。
その作業がとても読み応えがある歴史小説になるかどうかが決まる。
学説がふたつに分かれていたら、話が面白く展開するほうを選択していく。


この謙信は、謙信は人々が思っている想像している毘沙門天を信仰をし、
冷静であり、歴史書、詩歌に通じた文化的な面を持ちつつも、
一端戦争になれば、ほぼ戦争の大前線に出没し、戦うという姿を描き出す。
そして、死のなかに生あり、生のなかに何もなし。

そんな心情をもって、戦場では死地に命のきらめきを見いだすように描かれる。

敵陣と向かい合ったとき、どんな百戦錬磨の強兵でも命を惜しんで一番やりの怖さを克服できない姿、声をあげること(悲鳴や怒号はいくらでもあげられるが)虚報でも意味のある言葉を戦場で発することはできないのだという、戦場のなかに生きている世代のひとが書けた文章だったと思う。

そして、行動原理のわかりにくかった主人公謙信について
最後の最後、元信濃の豪族、武田に敗北し越後に救援を求めた村上議清に対して居室で静かな怒りをぶつけるシーンに謙信という人間の姿を見せてくれる。



こういう君命のまえに全力を尽くす小説はいま読み進めている中、沢山でてくる
http://yasu0312.blogspot.jp/2014/01/blog-post_685.html
「鬼」津軽地方の開拓を命じられた武士の生き様

http://yasu0312.blogspot.jp/2013/12/blog-post_8321.html
関ヶ原の「大谷刑部吉継」

人として、輝く生き方を戦国武将、メジャーな戦争を通じて啓蒙していった時期





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