2011年7月5日火曜日
ヒトはどうして死ぬのか? 死の遺伝子が設計された理由が感動的
生物の細胞はなぜ死ぬのだろう?
プログラムされた細胞の死 「アポトーシス」について書かれた簡単な新書
新書の最初の章で、
著者のやっている学問分野の現状を解説してくれるのはいい本だと思っている。
まずは、その分野の現状がわかり、著者がきちんと専門なのかを教えてくれる。
もうひとつは、その分野がもっと知りたいと思ったときの先導役になる。
細胞の死は二種類ある。 細胞の自殺「アポトーシス」と細胞の事故死「ネクローシス」
通常、細胞が分化していくときは、わざと沢山作っておいて、消去する方法をとる。
無駄は大きいが、不測の事態に備えると同時に、細胞分裂は2の二乗で増えるから多めに作られてしまう。
細胞分裂と細胞を殺す遺伝子「アポトーシス」はセットで生命維持に取り掛かっている。
身体がガンに侵されたりウィルスに晒されたとき、
治すのではなく、殺してしまい、新鮮な細胞を新しく作ったほうが効率が良い。
細胞を分化するとき、その境目の細胞が死ぬことで、手足やしっぽが作られている。
そんな高度な生命維持をしていく生命だが、回復できない細胞がある。それは、脳の神経細胞や心筋細胞だ。
ここは一生涯使い続けなくてはならない。高度の生命維持をしている為、代替えが効かない。
また、通常の細胞分裂も上限の回数が決まっていて、無限にはできない。
今後の研究は、ガンやエイズなどへの治療方法へ活かしていくと考えている。
しかし、現実にはお金もかかり、ガンのプロセス自体が完璧に解明されていないので、
アプローチもとても困難になっている。理論を現実の効用に落としこむのは、相当に大変なことなのだと、この本は考えさせられる。新薬を作ることの難しさなどは、想像以上だった。
最終章は、細胞の死を研究してきた著者の死生観
生命がはじめて自殺死というプログラムを自分の遺伝子に組み込んだのは 男女という性がうまれたときだという。
生殖細胞が減数分裂をする、遺伝子をシャッフルする過程で、生命は多様な遺伝子プールを得ることができた。そこから生命の進化に繋がったと考えれている。
性と死が密接になったのは、遺伝子がシャッフルされて新しい遺伝子が生まれ続けることだ。
ここで、生命は爆発的に進化した。
その結果、生命自身が生き延びていくことに無理が生じてしまった。
ひとつの遺伝子を何度もコピーしていくことで、傷ついたり劣化してしまう。
そこで古くなった遺伝子を維持していくよりは、新しい遺伝子に切り替えることになった。
それが「死」だ。死があることで、生命は何度も更新されていく。
「性」の繁殖システムで作られた「生」がある。
その「生」の連続性を維持していく為に「死」が必要である。
「死」という自己消去機能があったからこそ、遺伝子の「生」の連続性は保たれ繁栄できた。
生命自身が 自分の死ぬという利他的な行動をする為、遺伝子たちは連続性を保ち、生き延びていくことができたし、将来も生き延びていくことができる。
生命は将来の「生」ために自分自身の「死」という利他的な行為をする、 そんな死生観。
仮に、不老不死が達成できたら社会はどうなるか?
地球がパンクしてしまう。起こりうる可能性はまずは戦争だ。細胞の自殺死はなくなっても、事故死はなくせない。 ひとが多かったら人減らしするだろう。
次に起ころうのは、出産の制限、子供を作ることは禁止されるだろうな。
不老不死が達成された社会はとても凄惨なものになってしまう。
生き物は、「必ず死ねる」 それはとても哀しいことだが、将来の生命たちに必ず必要なものだったんだな。
そして、自分たちの命も、前のひとが死んでくれた上に立っている。
そのバトンを次に繋げることが命なんだという事を明確に感じさせてくれた本だった。
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