2014年7月16日水曜日

アルスラーン戦記 漫画版(荒川弘) と 小説原作(田中芳樹) このタッグは凄い





原作者 小説田中芳樹のアルスラーン戦記(初出1986年)を鋼の錬金術士、銀の匙の荒川弘が、コミカライズ。

ただのコミカライズではなく、漫画として、原作に弱かった人と人の繋がりの部分を、オリジナルストーリーで補完していく。ただのコミカライズというレベルではなく、本当に別の作品に仕上がっている。
文章だけではイメージしきれない王都エクスバーナの繁栄ぶり、ハガレンを思い出させるような洗練された登場人物たち、さながら映画版を観て、面白くて原作に手を出したかのような気分だ。

昔からの原作ファン以外なら、漫画版から入った方が良い。何故なら登場人物がまずもって多く、それもペルシャの偉人たちの名前を借用しているので、小説から入ると混乱してしまう。その分、文章を読みながら登場人物を想像するような楽しみはなくなるが。漫画は自分にとってこの超大河ヒロイックファンタジーを読む上での水先案内人になってくれた。

舞台はまるでイスラムに征服される前のイラン(ペルシア)にそっくりな異世界の物語。
多神教文化が栄え、シルクロード(大陸行路)という交通の要所を押さえた超大国がルシタニアという一神教宗教国家に対し一度の大敗で崩壊してしまった。
そして、なんとか生き延びたアルスラーンは、騎士の中の騎士 最強騎士ダリューンと戦場を離脱した。目的地は宮廷の重臣だが、王の怒りを買い、森のなかで隠棲生活をしていたパルス一の軍師ナルサスの元へ向かった、そして、王都攻防戦から敗戦で王都が占領され虐殺が行われるところから物語が本格的にスタートする。


戦争に壊滅的な敗北したパルス軍の王太子アルスラーン14歳が、敵国ルシタニア(イメージはキリスト教の十字軍)に占領されている王都を奪回するために、たった6人で、東国境の城壁ペシャワール城へ再起をかけて旅をしていくのが小説版のこの巻のメインになっていく。

ここまでで漫画2巻は終了。以後は小説版で読み進めた。ペルシアの史実を用いたファンタジー大河ドラマ、そしてイメージしやすい旅路、因縁がどうもあるパルス人で敵方(ルシタニア)についている銀仮面卿が執拗に追ってくる。旅路のごとく襲いかかる災難と敵軍。

主人公側の登場人物はチートの強さを誇り東国境ペシャワール城へ旅路を続けていくのだが、その戦いが、人数差が400人対1人か2人だったりに囲まれたなか、生き延びるしまう部分は昨今のチート主人公が出てくる作品に近い。でも、男だったら最強の騎士、最高の軍師(諸葛孔明のような)に憧れるだろう。

でも、この作品の最大の魅力は、各諸外国やパルス側の領主がパルス弱体の元、様々な思惑をもって戦争や政治闘争をしていくところ。そのために歴史大河ドラマをみているように感じるのだ。そこがめちゃ楽しい。ルシタニア内での一神教の大司教の専行や王弟殿下との対立、そして銀仮面卿との危うい共闘関係、銀仮面卿が通じている地下深くにいる蛇王(悪の化身)を蘇らせようとする魔術師たちとの関係。様々な勢力がそれぞれ自己の利益のために政争で争うのだ。大河歴史ドラマが大好きな人間なのでからこういう政治的思惑が絡み合うのは大好物だ。とても人間らしい。

そのなか、一人王家を復活を願い、その心の優しさで多くの人を味方にする王太子アルスラーン そこだけがこの戦乱の世に異端として存在している。その掲げる正義のもとに人が集まってくる。当然ながらその掲げる正義が万人の正義ではなく、パルス側でも既得権益を喪うものにとっては味方にならず中立となる。

そんなヒロイックファンタジー小説。あまりに面白くがんがん読み進めた。ちょっと前までAmazon欠品だったが、増版したのかほぼ全巻復活している。値段も一冊900円強。盛り上がっているいま、おすすめしたい小説。今回読んだのは1巻2巻 現在もまだ連載中で14巻まで発売。 それにしても初出が1986年で2014年で完結していない作家の遅筆には困ったものだな。

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